本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
蔦森樹『男でもなく女でもなく〜本当の私らしさを求めて〜』(朝日文庫)
『性同一性障害〜性転換の朝〜』からの流れで、目についた本。多分この著者は、『性同一性障害〜性転換の朝〜』での分類(というほどでもないが)で行くと、「自己認識上では性別がはっきりしない(させたくない)人」なのだろうと思う。『性同一性障害〜性転換の朝〜』が、友人の抱える問題に触発されて書かれた本であるのに対し、こっちは当事者の目から、実体験をつづったもの。

もともとは、たくましい長身の体格、ヒゲを生やした顔、バイク好き、と「男らしさ」の象徴のような外見、生活を追及してきた著者がある日、ふと鏡を見たとたん、「これは自分が求めていた姿ではない」と気付く。そして、自分は本当は、どのように生きていきたいのか、どんな自分が本当の自分なのか、ということを模索していく。

そしてその過程で、世の中がいかに「男らしさ」、「女らしさ」という概念にしばられているかということを実感していく。そう、スーパーで買う歯ブラシひとつ取っても、あきらかに使用者の性別が想定された区別があるのだ。そのことが、著者を苦しめる。肉体上の性別は「男」に分類されてしまう著者は、はっきりと、「男」として生きていくことに拒否感を覚え始めていたから……。

この人の言葉に重みがあるのは多分、この人が一度苦しみ始めてからは、自分のその苦しみから目をそらすことなく、その正体を突き止めようともがいていったさまを、ものすごく率直に語っているからだ。

気付かなかったフリをしてたほうが、ラクだったのかもしれない。それでも敢えて、社会から奇異の目で見られてでも、自分らしく生きていくことを選択したことによって、著者の人生は進む方向を大きく変えていく。「男らしい男であること」をやめてからは、ダンスホールの職員、女装雑誌のライター、バーのホステス、美術学校のヌードモデル、そして“専業主婦”までを経験して、「男」と「女」の二種類だけで構成されている社会の息苦しさを体感していく。

正直言って、私にはこの人の苦しみは、いくら切実な文章で語られても、いくら感銘を受けても、本当には理解できていないだろうと思う。極限まで想像力を押し進めても、どこかで跳ね返されてしまうような印象を、読んでいて何度か受けた。

それでも、やはり。この人の言葉は、重いのだ。

この手の問題の難しさをしみじみと感じたのは、最後のほうに収録されている、性同一性障害に関する一文。私は、前記『性同一性障害〜性転換の朝〜』の感想のなかで、どうやらこの問題はジェンダー(社会的な性別上の役割)で片付く話ではないらしいと分かって衝撃を受けた、と書いた。しかしこの著者はどちらかというと、この問題を「ジェンダーを中心に論じるべきもの」と捉えているらしいのだ。乱暴な言い方をしてしまうと、この人はむしろ、もともと以前から私が思っていた“男がフリルひらひらエプロンをつけて家事をしていても何も言われない社会”さえ実現すれば、それでいいのではないか、という認識に、かなり近い論理を展開しているように思える。

性転換手術を、「先天性疾患によって食い違っていた脳と肉体の性別を一致させる医療行為」と捉えるのが、今の動向らしいけれど、この人にとっては、それはやはり違和感のある考え方であるようだ。当事者を「生きていきやすく」する、Quality of Life を向上させるための措置としての手術は否定しないとしても。性転換を「医療行為」とする考え方は、結局は世の中が「男」と「女」のニ種類の人間のみによって構成されている、という前提に基づくものだから、従来の男女の概念に嵌まらなくても生まれたままの自分を受け入れようとしている「男でもなく、女でもなく」というアイデンティティを持った人々は、結果的にそこからもまた疎外されてしまうという懸念……であると私は読み取ったんだけど、どうかな。

でもって、結局は、私の感想としては「人それぞれってことなのね」という腰砕けな言葉に集約されてしまうのですが。リスクのある性転換手術を受けてでも肉体を変えたい人、変えたくないけど従来の性的役割分担は拒否したい人、自分は女だと思っている人、自分は男だと思っている人、どっちでもないと思っている人。みんなが、それぞれお互いを認め合いつつも干渉しあわずに、同じ社会に住むものとしての最低限のルールだけ守って「人それぞれだよね」と生きていくことが、夢物語のようだけど、でも究極の理想社会じゃないのかなあ。性別の問題だけじゃなく、いろんな局面での「生き方」全般の問題として。

あー、なんかめっちゃ青臭いこと書いてますね私。

とりあえず、無力かつまだあれこれ認識不足なことが沢山あるだろう今の私にできる範囲のことと言えば、誰に対しても「あなたが何者であっても、あなた自身であるからこそ好きなんです」という態度を、思うだけでなくちゃんと表明すること、かな? さらに輪をかけて青臭いか?

男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて (朝日文庫)
男でもなく女でもなく―本当の私らしさを求めて (朝日文庫)
〔2001年/親本1993年,勁草書房〕
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