本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(講談社文庫)
同居人A氏が「面白いよ」と言って貸してくれたんですが……。面白いっていうより私、泣いてしまいました。

当時の日本ではほとんど資料が手に入らなかった国、フィンランドに留学した著者の、悪戦苦闘の日々。

書かれた時期も古いし、これがこの人の初めての著書だったみたいなので、今読むとちょっと……な表現や、書き方がこなれてないなぁと私でも感じるような部分も所々にあるけど、とにかく引き込まれた。

零下何十度にもなる冬、太陽が沈まない夏。楽しいことと困ったことが交互にやってくる、初めての異国での一人暮らし。格変化が15通り(!)もあるフィンランド語の授業。教える側に日本語を解する人がいないため、翻訳のテストでは、クラスでただ一人「非母国語(英語)から非母国語(フィンランド語)へ」の翻訳をしなければならないという二重苦を強いられる。

そんな中で、この人、ものすごく勉強するの。たとえば、膨大な量の「作文」をフィンランド語で自主的に書き続ける。それも、なにがすごいって彼女、言語操作能力的にはまだまだ……って時期から、一生懸命、読んでくれる人を楽しませるために書いてるの。単に自分の勉強のためっていうんじゃなく、文法的な間違いをチェックして添削してくれる人が、少しでも楽しめるようにって。そのことで、私はもうめっちゃくちゃに感動してしまったのだ。なかなかできないことですよ、これは。

そして留学期間の終わる頃には、フィンランド人学生でも苦労するハードな試験に合格。しかも、一度パスしたにも関わらず、「せっかくここまで来たんだから自分が納得行くまでやりたい」と再度同じ科目の試験を受け(そういうことが可能な制度になってるのだ、フィンランドの大学は)、ついに「優秀」という評価を得る。

日本への帰国を前に、彼女はこの国での経験を、長い長い作文にまとめる。もちろん、フィンランド語で。(ここで初めて、この本のタイトル『フィンランド語は猫の言葉』の意味が明かされる。)この辺に差しかかると、読んでる私は、涙をこらえるのに必死。電車で読んでたからね。もし家で一人で読んでたら、本気で号泣していたかもしれません。

なんでだろ。全然、そんな“お涙頂戴”的な書かれ方はしていないのに。むしろ彼女が「面白おかしく」書いてる部分で、私は泣けてきてしまうのだ。こんなふうに書けるって、すごいことだよ。だって、いろんなことを、この人はずいぶん“さらり”と書いてるけど、ほんとはノイローゼになっても全然おかしくないような状況だったと思うのよ。なのに、それをこんなふうに書けてしまうんだから。ううううう。泣ける。泣いちゃうよ、私。

ところで、ここからは完全に余談になってしまうのだが、アメリカに行ったばかりの小学生の頃、私は「英語の分からない子供」を集めて英語を教えるプログラムに参加させられた。その初日、隣の席にフィンランド人の男の子がいた。名前は、“サクゥ”といった……いや、私の耳には、そう聞こえた。綴りもなんにも分からない。当然のことながら、ぜーんぜん言葉なんか通じないのだが、そのクラスに通ってた数週間、なんとなくずっとつるんで、機嫌良く一緒に遊んでいたっけ。言葉が分からなくても、特に問題は感じなかった。

毎日の送り迎えをしてくれた保護者同士(こっちは母親、向こうはおばあちゃん)は、お互い『和英・英和辞典』と『芬英・英芬辞典』を駆使して、なんらかのコミュニケーションをはかっていたようだけれど、なに喋ってたんだろうな、あの人たちは。ちなみに、余談の余談になるが、フィンランドを漢字で略すと「芬」になるということを、私はこの本で初めて知ったぞ。

まあとにかく、そういうわけで、今となってはあの男の子がこの本で言われるような「猫の言葉」を喋っていたかどうかは、まったく不明なのだ。フィンランドの話なんかも、聞いたことなかった(くどいようだが、共通の言語がないんだもん)。ちょっとくらい、言葉によるコミュニケーションにもトライしてみればよかったかなと、10年以上経った今、少しだけ思う。

大体にして、あのプログラムが終了した時点で、私も彼も、ちーっとも英語なんか上達してなかったもんね。ははは。

フィンランド語は猫の言葉
フィンランド語は猫の言葉
〔2008年,猫の言葉社/講談社文庫1995年/親本1981年,文化出版局〕
あ行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |









http://archive.mushi.pepper.jp/trackback/921578
前の本 | main | 次の本
+ about this blog
 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
 現在では捉え方が変わった本もありますが、感想文は誤字の修正など以外ではほぼ当時のまま。
 今後の実質的な更新はありませんが、コメント、トラックバックは受け付けています。