本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
E.V.Cunningham "The Case of the Poisoned Eclairs" (DELL)
ビバリーヒルズの屋敷で通いのメイドをしていた若い女性が、雇い主のところに送られてきたエクレアをもらって帰って食べたら、死んでしまった。エクレアが痛んでいたことによる食中毒事件としてあっさり片付くかと思われたが、食中毒の症状を引き起こしたのがボツリヌス菌であったことで、警察は困惑する。検査をした研究室の報告では、ボツリヌス菌というのは空気のないところで繁殖する菌であり、通常は肉の缶詰などから見つかるものだと言うのだ。「気密性のエクレアなんてあるもんか。このボツリヌス菌は人為的に注入されたんだよ!」ということになってしまったのだ。

ちょっとした偶然がなければ、本来このエクレアを食べていたのは、その日その家に集まってブリッジのゲームをやることになっていた4人の女性だったはず。いずれも離婚歴があり、現在は高級住宅地ビバリーヒルズでそこそこ裕福に暮している。狙われていたのは、このうちの1人か、それとも全員か。別れた前夫たちは、果たして関係しているのか。

ボツリヌス菌をエクレアに注入って、これはまた随分と、手間ヒマかかるわりには地味な手口ではないかねえ……などと思ってしまう私は、最近の派手な推理小説に毒されてしまっているんでしょうか。でも、登場人物たちが「こんな奇妙な事件は前代未聞だ!」とかしきりに言うのを読んで、「そうかー?」と思ってしまったことは事実。

ところで、この本の一番の特徴は、主人公が日系人だということである。

日系2世のマサオは、ビバリーヒルズの警察官。同じく2世である妻ケイティとの間に、2人の子供がいる。高級住宅地の大金持たちを相手にする仕事だけれど、彼自身は庶民的生活を送る普通のサラリーマン。唯一のぜいたくな趣味は、薔薇の栽培。

アメリカ生まれアメリカ育ち、アメリカ国籍を持つ彼だが、座禅を組んで瞑想するのを日課とする“ゼン・ブッディスト”でもある。両親は日本出身なので、一応日本語も喋れるが、夫婦間の会話は英語。日本食は結構好き。ミニチュア武器のようなナイフとフォークで食べる西洋式の食事と比べて、箸を使う日本式の食事のなんと優雅なことか、なんてことを時にふと思う。

外見上は、黒い目、黒い髪、黄色い肌の、完全な東洋人。その姿を見て「ガイジン」扱いしてくる人たちに対しては、「私はアメリカ人だ!」と主張する。その一方で、中国系と一緒くたにされたりすると、やっぱりちょっとムっと来て「私はジャパニーズだ!」と言っちゃたりもする。ご飯を炊いて天ぷらを揚げてくれる日系人の妻をありがたく思う一方で、自分と同じ黒い目黒い髪の彼女に「君はすばらしいアメリカ人女性だ」なんて言っちゃったりもする。

その妻ケイティはといえば、「日本の女性はアメリカ女性と比べて非常に虐げられており、奴隷のような生活をしている」などとカルチャーセンターかなんかで学習してくるし、ちょくちょく顔を出すビバリーヒルズの「禅センター(って、どんなところだ?)」に集ってくるのは、韓国人やロシア系の人々ばかりで、日系人は彼とお師匠さんだけ。

なるほど、アメリカ育ちの日系人の世界って、こういうもんなのかなあ、なんて、思わなくもない。実際のところを知らないだけに、けっこうリアリティだったりするのかしら、と。この作者のカニンガムさんという人が、実際にはどの程度「日系アメリカ人」をよく知っているのかは、全然分からないんだけどさ。

大体にして、このマサオさんの苗字は、「マスト」というのだ。増戸? 枡斗? 非常に、日本人にはめずらしい苗字だと思うぞ。さらに、このマサオ・マストさんの従兄弟の人のフルネームは、「オミ・サイク」なのだ。どういう一族なんだよ。ただ、ぜーったいに有り得ない名前だっ! とも言いきれないしなあ。たまたまカニンガムさんの知り合いの日系人にこういう名前の人がいたのだとすれば、私が書いていることは単なる言いがかりになっちゃうよなあ。だれか、「私はマストとかサイクとかいう苗字の日本人を知っています」という方がいらっしゃったら、ぜひご一報くださいませ。

で、このマサオさんなんだが、探偵としては、結構直感型である。「こいつが犯人だ!」と最初に直感して、その後にコツコツと足で証拠固めをしていくタイプ。本質直感ってやつか? ただ、この作品に限って言えば、私、最後まで読んでも、なぜ最初に彼が正しい犯人を当てられたのか、どうしても分かりませんでした。あとから、証拠はぼろぼろ出てくるんだけど。なんか、読み取り損ねているのだろうか?

もしそれが、「マサオはメディテーションを日課とする“禅ブッディスト”なので常を越えた洞察力が働くのである。これが東洋の神秘なのである」などという作者の認識によるものだったら、怒ってしまうけどなあ、と思った私だ。

ちょっといいなあ、と思ったのは、奥さんのケイティが、天ぷらのネタの1つに「ズッキーニ」を使っていたこと。さすが鮨ネタにアボカドを使うと言われるカリフォルニア人だけのことはありますが、しかしこれはやってみたら、意外と美味しいかもしれません。

Case of the Poisoned Eclairs
〔1979年〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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