本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
井上ほのか『名探偵を起こさないで』(講談社X文庫)
いやあ、なんか知らないけど、すごいわ。

しばらく「少女小説」(という言い方でいいのか?)というジャンルに接していない間に、世の中はここまで来ていたのか、というかんじ。いや、少女と呼ばれる年頃だった頃の私が知っていた“少女小説”というのも、せいぜい新井素子の「星へ行く船」シリーズとか、久美沙織の「丘の上のミッキー」シリーズ(めるへんめーかーの挿絵に釣られて読んだ)くらいだったんですがね。ああどっちも集英社コバルト文庫だ。当時から、たとえば新井素子の本について「文章で描いた少女マンガ」などという言い方をするオトナはいたし、少女であった私も、まあこういう本って大人の目から見ればそんなもんなんだろうと一応納得してた。

さて、それから十数年を経て、手に取ってみたのがこれ。たしか島田荘司の推薦で世に出た、ジュニア物には珍しい本格推理というふうに、某ミステリ・ブックガイドで紹介されてた井上ほのかである。対象年齢は、12〜14歳くらいであろうと思われる。言っとくけどこれ、自分で買ったわけじゃなくて、ブックガイドを読んで興味を持った同居人が古本屋で見つけてきたんである……とか言い訳してみたりして(笑)。

で、読み始めてすぐに抱いた感想が、冒頭の「なんか知らないけど、すごいわ」だったんである。何がすごかったのかというと、文章なのね。これが最近の少女たちにとって普通の小説の形態なんだとしたら、すごいよなあ、と。私なんかにとっては、最初ものすごーく、読みにくかったのだ。とにかく、視点がくるくる変わる。それがすべて、一人称。地の文と会話文のボーダーがあいまい。そこへ突然、「作者本人」 の視点が乱入する。etc. etc. etc.……。とにかく、今自分が読んでるそのページで「誰が、何を」しているのかってことを判断するだけで、結構エネルギーを使うのだ。で、ローティーンの女の子たちがこれ読んですんなり内容が頭に入るのなら、かなりマルチタスクな脳味噌してるよね、と舌を巻いてしまったのだ。

しかし、考えてみると。マンガの場合には、私だって、子供の頃から平気でこういう形態の語り口を受け入れているのである。一つのコマのなかに全てのキャラクターのモノローグが挿入されたり、場合によっては枠線と枠線の間に作者の私信のようなものが手書きされていたりするページを、まるごと楽しんで読んでいたのである。それを、文章でやっているだけじゃないか、これって。驚くことはない、これは私が少女だった頃に「文章で描いた少女マンガ」と言われていたた文体が、さらに進化を遂げただけのものなのだ。そう思いなおしたら、急に読みやすくなりましたね。で、その場にあったシリーズ5冊全部読んでしまった。

しかし……そーゆーふうに頭を切換えなければ読めないあたりに、結局は自分の年齢を感じるなあ。わはははは。

ま、気を取り直して、内容についても簡単に触れておきましょう。

本書『名探偵を起こさないで』は「少年探偵セディ・エロル」シリーズの第1作。ヒロインはカナダの小さな町に住む、眉子・アロウラスという14歳の女の子。日本人の母は既に亡く、スペイン系カナダ人の父と二人暮らし。内気で奥手な、自他共に認めるごく普通の女の子……って、カナダ生まれのわりには、まるっきり“日本人の感覚での普通”のような気もするのだがなあ。しかしながら、外国を舞台にした少女マンガの大半において、登場人物はみんな「ガイジンの皮をかぶった日本人」なのである、内面的には。そう思えば腹も立たない。少年探偵セディ・エロルというのは、眉子が愛読している古い推理小説シリーズの主人公。ところが失恋という精神的ショックに崖から落ちて意識を失うという物理的ショックが重なったとき、彼女は自分のことをセディ本人だと思い込むようになってしまった。しかも、ホンモノのセディばりの推理力まで発揮するのである。

なぜ普段はトロくさい女の子がいきなり推理力抜群になってしまうのかという辺りに一応きちんと理屈をつけているのには、結構好感を持ちました。ストーリーそのものは、やっぱり最初から最後まで少女マンガ風味(笑)。ミステリとしてもそれなりなんだけど、スレっからしの読者には、どっかで見たネタっぽく思えちゃうかな?

あと、これはシリーズが進んでからの話になるんだけど、通常の名探偵物で時折感じる割り切れなさ……つまり、殺人事件の犯人当てをゲームのように楽しみ、わざわざ関係者全員を集めてまで得々と他人の死について語る“名探偵”の冷酷さ、感情移入し難い人間性のなさに、一種の回答を与えているのが、かなり新鮮でした。このシリーズでしか通用しない論理ではあるけど、うまく理屈つけたなってかんじで、これも好感度大。

名探偵を起こさないで (講談社X文庫―ティーンズハート)
〔1989年〕
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