本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
小泉喜美子『死だけが私の贈り物』(徳間ノベルズ)
ずっと捜しつづけていた、小泉喜美子最後の長編作品。死後に出版されたもの。著者はこの作品をコーネル・ウールリッチに捧げているんだけど、なるほど、確かにこれは和製ウールリッチってかんじだわ。『喪服のランデブー』とか、ああいう雰囲気だね(あれはウィリアム・アイリッシュ名義で書かれたものだったか?)。文体も、ウールリッチの翻訳ぽい。

話そのものは、特にヒネリがあるわけでもない。いや、あることはあるんだけど、そのヒネリの部分まで含めて、結構手垢のついたストーリーかもしれない。少なくともデビュー作『弁護側の証人』のような、トリッキーな作品では決してない。

ただ、文体にせよ、何にせよ、小泉喜美子が何を目指していたのかっていうのが、これ読んでると改めてよく分かる。無粋なものが嫌いで、最初から最後まで、気取ってお洒落したミステリが好きだったんだ、この人は。だから例えば、病院が出てきても警察が出てきても、すごく抽象的な「病院」「警察」という記号に敢えて留められている、ようなかんじがする。殺人が行なわれるが、その方法も大したことではなく、大雑把な一言であっさりすまされてしまう程度のことに過ぎない。彼女にとって大切なのは、胸元のすみれの花、現場に残された上質の真珠、過去の追憶、感傷的なセリフ回し……。

この雰囲気に一緒になって浸れるか浸れないかで、この作者に対する評価は、がらりと変わるだろう。「ここまでやるか?」というくらい、どっぷりと陶酔して書いているもの。 ほんっとうに、無粋なものや野暮なものや下品なものが、嫌いだったんだよ、この人は。ずいぶんと、生きにくい世の中だっただろうなあ。彼女にとっては、まわり中、無粋なものだらけだっただろうから。

だからちょっと、痛々しいと思ってしまうのだ、私は。

死だけが私の贈り物 (トクマノベルズ)
〔1985年〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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