本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
Robert J. Sawyer "Foreigner (The Quintaglio Ascension Trilogy #3)" (New English Library)
『占星師アフサンの遠見鏡』"Fossil Hunter"に続くキンタグリオ三部作の最終巻。

天文学、進化論ときて、今回恐竜たちの世界で脚光を浴びる新たな学問、それは精神医学。恐竜版のフロイト役は、ニンゲン界とは違って雌の恐竜モクレブ。このへんに、ソウヤーの「リベラルであろうとする意志」を嗅ぎ取ってしまうのは、考えすぎ? "Illegal Alien"での人種差別問題の扱い方で感じたのと同じ、「意外に社会派」な資質がすでにここで出てきているな、というような。考えてみれば、キンタグリオの社会というのは、ものすごい男女同権社会なのですね(そのこと自体が、シリーズ全体のある種伏線になっていたのは、驚きだったけど。)

それから、もひとつ「う〜ん、ソウヤー」と思ってしまったのが、ソウヤー作品の多くで重要なサブテーマとなっている「中年カップルの危機克服」という要素が、恐竜を主役とした本書でさえも、ちらりと顔を出していること。むむむ。このシリーズだけは、このテーマとは無縁だろうと思っていたのになあ。いや、悪いと言ってるわけじゃ……。でも、ちょっと笑ってしまいました。

さて、モクレブが心療カウンセリングや夢分析を通じてキンタグリオ族の深層心理の謎に迫ろうとしているのと同じ頃、前作で活躍した地質学者トロカは、相変わらず世界中をめぐる調査の旅を続けているうちに、大陸から遠く離れた島で自分たちとはまったく違う文明を持った恐竜の一族に遭遇します。単身、彼らの地に上陸して、ファースト・コンタクトをはかるトロカ。しかし、なわばり本能をまったく持たない異種族と、個体同士の接触が不可能なキンタグリオ族が理解しあうことは、あまりにも困難でした。トロカの必死の努力にもかかわらず、両種族の間には大きな悲劇が起こってしまいます。

***


……ふーむ、困った。これ以上のことは、何を書こうとしても、前の巻のネタバレになってしまうような気がするなあ。本書の冒頭ですでに前提条件となっている事柄にさえ、触れることができないぞ。シリーズ物の紹介は、難しい。

とにかく舌を巻いたのは、第1作の頃から、この最終巻への伏線がばりばり張られていたこと。そして、シリーズ全体のテーマと、本作で同時進行するいくつかの要素が、一本化していく。すべてのディテールが、どんどん収束していくさまに驚嘆しました。モクレブがついに「なわばり本能」の真実に到達するあたりからは、月並みな表現ですが息もつかせぬ展開になっていきます。人間ドラマならぬ恐竜ドラマ的な書き込みも秀逸で、サービス精神たっぷりです。くすっと笑える小ネタあり、しみじみとした泣かせあり、そしてSFならではの、長い長いタイムスパンを視野に入れた展望あり。はっきり言って、我ながら「なんで恐竜しか出て来ないような話でこんなに」と戸惑ってしまうくらい、思いっきり感情が盛り上がってしまいました。

本当に、全巻の翻訳が出てほしいシリーズです。この感動を、日本中に伝えてほしい。

Foreigner (Quintaglio Ascension)
Foreigner (Quintaglio Ascension)
〔1994年(リンク先はTor版〕
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