本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
Robert J. Sawyer "Flashforward" (Tor)
いやはや。もう私、ソウヤーに関してはかなり点数甘いかもしれないということは自覚してるんですが、手に入るものを片っ端から読んでいって、今んところ1つとして「これは完璧ハズレだった」というものがない。ちょこちょこと文句付けたいところはあるにしても。どれもこれも(今回のこれなど特に)非常に「分かりやすい」面白さ。本当は、私なんかがあれこれ言葉を費やすより、あらすじをちょこっと言うだけで充分キャッチーなのではないだろうか。

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西暦2009年4月21日。CERNに所属する科学者コンビ、ロイドとテオによる画期的な実験へのカウントダウンが完了した瞬間。地球上のすべての人類の意識が、「現在」を離れた。ほぼすべての人類が、21年先の未来を垣間見たのだ。2分後、「現在」で意識を取り戻した人々は、空白の2分間における社会の機能停止のせいで、飛行機が墜落するなど世界中が混乱に陥っていることを知る。ロイドの婚約者が前夫との間に生んだ娘である8歳の少女も、ドライバーが運転不可能な状態になって暴走した自動車の犠牲となり死亡していた。

生き残った人々の証言を突き合わせた結果、皆が見た未来の世界は完全な整合性を持っていることが分かる。時間とは、未来とは、運命とは、最初から固定されたものなのか? それとも、人々が見たのは、あり得るべき様々な可能性の1つにすぎないのか? そして多くの死者を生み出したこの現象は、果たして本当にロイドたちの実験が引き起こしたものなのか?

科学者として「未来は変えることができない」という立場を取るロイドは、未来像の中の自分が現在の婚約者とは別の女性と結婚生活を送っていたことで苦悩する。今の相手との破局に自分は耐えられるのだろうか、あらかじめ破綻することが確定している結婚生活に踏み切ってよいのだろうか、と。

一方テオは、問題の瞬間に未来像を見ることができなかった。彼は、未来像の中の世界が到来する前に、死する運命だったのだ。他の人々の証言から、自分が「数日前の殺人事件の被害者」として未来のメディアで言及されていた/されると知った彼は、「未来は変えることができる」という信念のもと、21年後に自分を殺害する人間を探し始める。

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提示されるのがスケール感のある設定(ここでは時間跳躍)であればあるほど、この著者は主人公たちに、非常に感情移入しやすい、卑近でさえあるような問題(ここではロイドと婚約者の関係とか)をぶつけてくる。また、時代設定がせいぜい「今よりちょっとだけ未来」に留まっていることで、登場人物たちと読者側の思考の道筋が大きく乖離することもなく、こちらの“常識”の範囲内で無理なくさくさくと読めてしまう。そういえば『ターミナル・エクスペリメント』『フレームシフト』も、"Factoring Humanity"も、みんな「ちょこっとだけ」の未来だよな。"Illegal Alien"は現代物だし。だからかな? なんかこう、SFなのに、妙に「等身大」というか、身近なかんじで。

で、そこにさらに「21年後の犯人探し」という、ミステリ者にとっても美味しいネタをぶち込めば、これでもうすっかりソウヤー節全開。なるほどこれなら、SFは苦手でもソウヤーは面白く読める、という人もいそうだなあ。なんて、ヒトゴトみたいに言ってますか私。

同じプロジェクトを共にリードする科学者でありながら、「未来」に対するアプローチが正反対のロイドとテオの対比が、ありがちだけど巧い。ロイドはどんな人生を歩むのか? テオは生き延びることができるのか? ぐいぐい興味引かれて、読み進むことができます。電車の中で読んでたんですが、ちょうど大詰めのところで降りる駅に到着してしまい、「ここで中断できるかっ」と遅刻覚悟でホームのベンチに坐って読み終えちゃいました(って、おい)。

Flashforward
Flashforward
〔1999年〕

邦訳:ロバート・J・ソウヤー『フラッシュフォワード』(内田昌之・訳/ハヤカワ文庫SF/2001年1月刊)

フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫SF)
フラッシュフォワード
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