本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
Robert J. Sawyer "Illegal Alien" (Ace)
『スタープレックス』では思いっきり真っ向勝負なSFをやってくれたソウヤーですが、その次の次の作品であるこれでは、再びかなりミステリ色濃厚。いや、はっきり言って、今までの彼の様々な「ミステリっぽい」SF作品以上に、ものすごーくミステリしてます。なんせ本国カナダでは、推理小説の賞にノミネートされたりもしたらしい(ソウヤーってカナダの人だったのね、知らんかったよ)。

そうだな、『ゴールデン・フリース』が倒叙物かつホワイダニット、『ターミナル・エクスペリメント』がサイコ・サスペンス系医療ミステリだとすると、この作品は疑問の余地なく“法廷物の本格推理”だな。タイトルで分かるってか。

そうなのだ。この作品のタイトルは、"Illegal Alien"――「違法な異星人」。

遥か彼方からやってきた、地球人とは身体的条件も精神構造もまったく違う異星人が、地球の(より具体的には、米国カリフォルニア州の)法律によって裁かれてしまう過程を詳細に描きつつ、そこに殺人事件の謎解きを絡めた大変にオーソドックスな法廷ミステリなのだ。

***


限りなく読者である私たちが生きているこの「現代」に近いと思われるある日、地球にエイリアンがやってきた。自分たちをトソク(Tosok)と呼び、地球のどんな生物にも似ていない彼らは、地球人よりも遥かに高度な科学技術力を有しながらも、太陽系に突入した際に宇宙船を破損させてしまい、地球人の援助を求めていた。

アメリカおよびロシアの科学者らによるファースト・コンタクトはなんとか成功。意思の疎通方法も完全とまではいかないものの確立。国連によって正式かつ丁重に地球へのお客様として迎え入れられた7人の異星人たちは、当然のことながら、全地球の注目を集める。

宇宙船の修復は、米 Rockwell 社など、地球上ではトップレベルの電子工学技術を誇る数社が共同で、異星人たちの指導を受けながら手がけることとなった(めちゃくちゃ具体的だな(笑))。

製造作業が行なわれる場所にほど近い大学の未使用校舎が、彼らの宿泊場所として提供され、この限られた機会にできるだけ彼らから知識を吸収したいと考える科学者たち数人も同じ建物に引っ越してきて、異星人と地球人との共同生活が始まる。とても刺激的だけれど、ごく平穏な毎日。

しかしその平穏は、突然、破られる。宿泊施設内で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。すべての状況証拠は、トソクの一人であるハスク(Hask)が犯人であると、あからさまに告げていた。ホワイトハウスや世界各国首脳の思惑をよそに、ロサンゼルス警察は彼を殺人容疑で逮捕してしまう。

被害者の親友でありながらもハスクの無実を信じる科学者フランク(Frank)は、惑星間外交問題や地球内各国からの吊るし上げを恐れるアメリカ大統領の極秘指令も踏まえ、人種差別問題で実績のあるやり手の黒人弁護士デイル(Dale)を口説き落としてハスクの弁護に当たらせるが……。

***


検察側と弁護側の、丁丁発止のやりとりの緊迫感や、様々な証人の言葉で徐々に事件の全貌が明らかになってくる過程のスリルなんかは、まさしく法廷ミステリの醍醐味。そこに、地球人とは思考経路のズレてるトソクらのとぼけた言動が入って、適度にユーモラス。

被告が地球人でないことで、浮き彫りになる現代社会の姿。裁判制度のあり方とかも含めて(アメリカの裁判制度って、日本とはかなり違うみたいだけど)。それから、この話の中に出てくる「アメリカ人」たちは、アフリカ系、アジア系、ヒスパニックなど、人種的には様々。国家って、なに? 地球人って、なに? ということを、読者は考えざるを得ない。かなり、テーマ性の強い話だと思うのよ。でも、純粋に、エンターテインメントとして面白い。

とにかく、ディテールが良いのだ。いきなりエイリアンを迎えて慌てふためく地球側の対応も、エイリアンたちとの交流も、その後の生活も、「ああ、もし本当にそんなことがあったら、たしかにそういうふうになるかもなあ」ってかんじで。うまく行きすぎでは? ってとこもあるけど、納得はいく。そして、面白い。トソクの身体的特徴と精神の有りようの整合性だとかも、もう、いちいち面白い。ま、正直、こんなにあっさりと異星人に感情移入できてしまっていいのか? というほど、エイリアンにしては地球人にとって分かりやすすぎの部分も段々出てくるんですが。

彼らを迎えてのレセプションに“地球人が地球外生物を迎える心の準備をするのに貢献した”としてスピルバーグが招待されてたり、そういうのも妙に可笑しい。裁判の陪審員を選ぶ際、異星人に対して必要以上に好意的だったり悪感情を持っていたりすると公正な判断が下せない可能性があるので、そういう人を除外するためのアンケートが実施されるんだが、これに「SETIがなんの略称か知っていますか?」なんて項目があるのも微笑ましいなあ。ソウヤー作品を読むような人は全員、陪審員にはなれないんじゃないか(笑)。もちろん、ソウヤー自身も。そうそう、そのアンケートには、「SFのコンベンションに行ったことがありますか?」とか「スター・トレックのミスター・スポックのお父さんの名前を知ってますか?」なんて質問もあるんだよん。

そして、カリフォルニアに舞台を限定したドメスティックな法廷物と思わせておいて、さりげなく、さりげな〜く、スケールが大きい。最後に「あ、やっぱりこれって、SFだったんだあ」と気づかせてくれる。

実を言うと、そのスケール感が出てきたあたりから、かなり「のーてんき」な展開になってしまうことは事実なんですが。これ、ソウヤー作品の特徴じゃない? 他の作品でも、いつも思うのだ。「うーん、こんなあっけらかんとした収束の仕方でいいのか?」と。ほら、『スタープレックス』なんて、あれだけの長大で複雑な物語の最後の最後でのクライマックスが「赤ちゃん救出大作戦」でっせ。ああいうかんじ。

きっとソウヤーって、ものすごい性善説の人なんだろうなあ、と思いますわ。憎めない人だ。安直で物足りないような、後味良くて満足なような。うん、ソウヤーに限って言えば、やっぱりこれでいいんだと思う。これこそが、ソウヤーなんだと思う。

殺人事件の犯人当てミステリとしてだけ見れば「驚愕の真相!」というほどではないかもしれないけど、その他の要素も含めて全体としては謎解きパズルのピースが嵌っていく快感がしっかりあって、『ゴールデン・フリース』と同じく、ミステリ者の人にこそ読んでほしいSF。

翻訳は、これと日本での最新刊『スタープレックス』との間に出てる "Frameshift"のほうが先になるのかな? 早く訳出されてほしいものです。

Illegal Alien
Illegal Alien
〔1997年(リンク先はVoyager版)〕

2002年10月追記:
結局、翻訳は『フレームシフト』、『フラッシュフォワード』に先を越されて、それらの後にやっと出ました。ふう。

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)
イリーガル・エイリアン
ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』(内田昌之・訳/ハヤカワ文庫SF/2002年10月刊)

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