本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
澤木喬『いざ言問はむ都鳥』(創元推理文庫)
ヴァイオリンを趣味とする若き植物学者が語り手の、連作短編集。

「楽器を慈しんで弾いてる感じでね。やっぱりほら、楽器も植物だから」

周りの人々からそんなふうに言われてしまう、この植物学者が、私はとても好きだ。人間以外の何かを愛していることを、こんなにもストレートに、周囲に分からせてしまえるこの人が。それを自分のライフワークにできてしまう、この人が。

彼が淡々と観察する日常の一こま一こまが、ある瞬間にくるりと回転して、裏の不気味な世界を見せ付ける。しかしふと我に返ると、植物たちは、太陽の光を浴びていつもの顔のまま澄ましているのだ。なんか、この作品集のこの雰囲気は、すごく好きだなあ。

それと、作中で主人公が、「なぜ自分はアマチュアの身でありながら、楽器演奏にのめり込むのか」というのを分析するくだりがあって、それ読んだとき、「ああ、それって、楽器やってた頃の私がずっと思ってたけどうまく言えずにいたことだ!!」と、目から鱗が落ちたんだよね。

次々と並べられる植物の名前とそこから喚起される映像が美しいと思う。森の中で楽譜を広げてヴァイオリンの練習をするシーンが素敵だと思う。5歳の「自称許婚」になつかれてしまう主人公の姿が、微笑ましいと思う。研究室の中の他愛のない光景が、自分自身の学生時代とは全然違うのに、なぜだか懐かしくてたまらない。

うーん、どう言ったらいいんだろう。主人公が植物学者は植物学者でも特に「分類学」をやっているというのも、ツボに嵌まったなあ。分類っていうのは、ある意味とても、純化を求める作業であるような気がするのだ。

公平に言えば、ミステリとしては大して目新しいパターンじゃないし、色々瑕もあるんだろうとも思う。けど、とにかく個人的に、ものすごく嵌まってしまった。うまく言えない。もどかしい。

いざ言問はむ都鳥
いざ言問はむ都鳥
〔文庫1997年/親本1991年〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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