本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
種村季弘『謎のカスパール・ハウザー』(河出文庫)
まず、最初に言っときますけど、後ろカバーに書いてある内容紹介で「一九二八年、ライン連邦バイエルン王国に突如現れた奇妙な少年。」っていうのは、違うだろーがっっ。皆さん、これは一八二八年の間違いだからねー。手に取って「どういう話かな?」って思ったときの印象が全然違うじゃん、1928年と1828年じゃ。この本、損してるよー、この誤植で。ぶつぶつぶつ。

ふー(気を取り直して)。カスパール・ハウザーというのは知る人ぞ知る実在した人物なんだけど、不覚にも私は今まで、名前程度しか知りませんでした。1828年、突如ふらりと出現した少年カスパール・ハウザー。言葉も不自由な彼自身の拙い主張では、幼いころからずっと地下牢に監禁されていたらしい。保護されて数人の養父の手で教育を施された彼は“上流階級にふさわしい高等教育を受けたのが初めてとは思えない”成長ぶりを示すが、様々な人々の思惑に翻弄された5年の歳月の後、謎の男に暗殺されてしまう。果たして、彼は暗殺されなければならないほどの、どんな秘密を抱えていたのか。彼自身の記憶からも抜け落ちているはずの彼の本当の素性は?

「見てきたように嘘を言い」という言葉があります。これは、そーゆー本です。

著者は、膨大な史料・文献を駆使して仮説をまとめていく。でもその仮説は、「そうでなかった、という証拠はない(そうであったに違いない、という証拠もない)」といったものなのだ(西澤保彦のミステリみたいね)。

曲がりなりにも史学科出身の私がまず思ったのは、「これって、歴史家には絶対に書けない本だなあ」ということ。あくまでも、“文学者”のロマンなのね。そこに価値がある。

カスパールの正体を求める問いは、カスパールが見ていた世界、そしてカスパールを見ていた世界の正体を求める問いに、いつしかすり代わる。そしてカスパール・ハウザーという一つの謎を通して、著者自身は一体「何」を視たかったのかという問いに。

カスパール・ハウザーはある日やって来てそこにいた。それから消えた。カスパール・ハウザーに接触した人びとは、その度に彼を御者の助手と見、百姓の小僧と見、浮浪者と見、無神論者、キリスト教徒、同性愛者、嘘つき、詐欺師、女中の子、野蛮人、フランスの、スペインの、ハンガリーの、それぞれ盗まれた王子として見た。(本文中より引用)


……なんだかちょっと、わくわくしない?


謎のカスパール・ハウザー
謎のカスパール・ハウザー
〔1997/1983〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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