本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
神林長平『帝王の殻』(ハヤカワ文庫JA)
『あなたの魂に安らぎあれ』(ハヤカワ文庫JA)に続く、火星三部作の第2作目、だそうなんだけど、実は10年前に読んだその『あな魂』(と、解説で略称されていた)の内容を、ラストシーンの漠然とした雰囲気以外全く思い出せなかったりする。ま、いいか。

生まれたときから、一人に一つ与えられる銀色のボール、パーソナル人工脳PAB。火星の人々は、PABとの対話のなかで己を育て、PABを育てる。自らの副脳として……。

SF的なセッティングには、あまり詳しくない。だからここで云々することはしない。ただ、神林作品を読むとき私がいつも感じるのは、〈自分〉は一体どこまで〈自分〉なんだろうかということ。我思う故に我在りというならば、我思うと思うその我は一体どこから来たのか、とか。あるいは、〈自分〉とそれ以外の〈外界〉とは、一体どこで区切られているのだろう、とか。そんな問いがふっと頭の中に浮かび上がって、気がつくと〈自分〉という存在の足の下の地面が音もなく消失している、漠とした不安感と浮遊感。

ここでは、人工脳PABがその問いを引き出す役割を果たしている。PABが自分の意識のレプリカなら、私はそれをもう一人の自分だと言い切ることができるか。では、そのPABが〈自分〉から乖離したことを喋り始めたら? それでも、それを自分だと認め続けないといけないとしたら? その、不安感。それが何故か、心地よい。

本当に久し振りに読んだ神林作品。この小説自体を読むのは初めてだったのに、とても懐かしい感触だった。

帝王の殻
帝王の殻
〔文庫1995/単行本1990〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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