本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
北村薫『冬のオペラ』(中央公論社C・NOVELS)
「名探偵はなるのではない。ある時に自分がそうであることに気づくのです。いいですか、そのまま頬被りして、死ぬまで平穏な一般人としての道を歩むこともできる……」(本文中より引用)
と、いうわけで巫(かんなぎ)弓彦は一つの事件も扱わないうちから、いきなり名探偵である。事務所だって構えているし、〈わたし〉こと姫宮あゆみという、ワトスン的な記録係もついている。

が。しかし。名探偵が乗り出すに相応しい事件などそうそうあるわけもなく、彼は口を一文字に結んだシリアスな名探偵キャラクターそのままで、コンビニや寿司屋や商店街の福引コーナーでアルバイトをして生活費を稼いでいるのであった。巫は「物語の中に登場する名探偵の設定」が抱える矛盾と理不尽を一身に背負った、孤高の名探偵なんである。

そんなわけで、いくら巫一人が名探偵でも、事件を起こすのはモリアーティでも怪人二十面相でもない一般人である。この本に収められている3つの物語のうち、2つまでは警察沙汰にさえならない。普通の人々が普通の感情から引き起こす事件だからこそ、解決には少しばかりの苦みが伴う。19歳の〈わたし〉は、それら全てを真摯なまなざしで見つめている。

名探偵巫弓彦の存在自体がどこか哀しい、妙にアンバランスな感じのする、変に印象的な本でした。

余談ですが。私、3つめの物語を電車の中で読んでて、思わず大声を上げそうになりました。この中で「殺人現場」となっている京都の私立大学って……作中の記述とは金閣寺から見た方向が正反対なんだけど、でも……

もしかしたら、私の母校だっ(……違うかなあ?)。

冬のオペラ
冬のオペラ
〔角川文庫2002/中公文庫2000/新書(中央公論社)1996/単行本1993〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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