本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
稲見一良『ダック・コール』(ハヤカワ文庫JA)
デコイって、知ってる? 木製のカモで、結構リアルに羽の模様が描いてあって……。本来は、猟師が池や川に浮かべて、本物のカモをおびき寄せるという目的のためのものだったんだけど、今はどう見てもそういう用途には使えそうにないサイズのものをインテリアの装飾品として売ってたりもするよね。あれ、欲しいんだ。時々、ものすごく。手元に置いてみたいと思う。なるべくリアルで重厚な色使いのものを。なんでだろ?

本書に収められているのは、旅先で出会った不思議な男が石の上に描いた鳥の絵を目にした青年が見る、6つの夢。6つの物語は全て、“鳥”をキーワードとしている。カメラマン助手がレンズで捉えた鳥、密猟者志願の中年男とパチンコ名人の少年が狙う鳥、アメリカ兵として戦った戦場の記憶を残す日系二世の孤高な男が森の中で声を聞く鳥……。

けれども、物語の主人公はあくまでも、鳥と関わる男たちの方なのだ。男たちは、決して華やかではない世界に生きている。そして鳥たちには、男たちの思惑など、何の意味もない。そしてだからこそ、物語のなかの鳥たちの現れかたは、鮮やかだ。

木でできたデコイを、本物のカモに仲間であると認識させてしまおうという発想は、ある意味自然界への挑戦、のような気がする。決して“自然”を見下すことなく、かと言って圧倒されてしまうわけでもなく。かつてああいうものを実用品として作っていた人々は、同時に単なる道具としてではなく、彼らが抱く“鳥”のイメージをそこに結晶させて真剣に一筆一筆、色を重ねていったのに違いない、という気がする。だから私は美しいデコイに惹かれているのだ、きっと。

なんとなく、デコイを思わせる本だった(デコイの出てくる物語も入ってるけど)。第4回山本周五郎賞受賞作。

ダック・コール
ダック・コール
〔文庫1994/単行本1991〕
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 かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
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