本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
薄井ゆうじ『竜宮の乙姫の元結いの切りはずし』(講談社文庫)
会社を辞めて当てのない旅をしていた〈僕〉が新聞広告で見つけた仕事は、スキューバダイビングによる「竜宮城捜し」。

「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」というのは甘藻科の海草で、リボン状の葉が1メートルも延びて浅瀬にゆらゆらと密集して漂っているらしい。葉が長いから、名前もリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシというらしい。

この物語に出てくる人々はみんな、何らかの意味で停滞していて、彼らにとってリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシの河は今の自分が佇むこの世と、もしかしたら今とは違う「本当の自分」になれるかも知れないどこか――竜宮城――との間の架け橋を象徴しているのだけれど、それとは別に、作者はこのリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシという名前の響きが気に入っているのに違いなく、そして主人公はリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシという名をしつこく何度も何度も口にしながら頭の片隅で、「もしこの藻の名前がもっと短かったとしたら、その名を口にするときに余った時間を何に使うべきだろう」みたいなどうでもいいことを考えていたりする。

薄井ゆうじの本を読んだのは2冊目ですけれども、なんだか淡々とぶっとんだ設定を出してくる人ですね。それを、読んでくうちに淡々と当たり前のように思わせてしまう人ですね。そして、淡々とやるせない小説を書く人ですね。

竜宮の乙姫の元結いの切りはずし
竜宮の乙姫の元結いの切りはずし
〔1996〕
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