本の虫

虫干し読書録

こ ん な 本 を 読 ん で い た 。
著者名インデックス(な行)
【な】


【に】


【ぬ】


    【ね】


      【の】
      な行(作者名) | permalink | - | - | pookmark |
      西澤保彦『依存』(幻冬舎ノベルス)
      タックたちは大学 3 回生。『仔羊たちの聖夜』ではタカチの抱える問題がどういった種類のものであるかが間接的に提示されつつタカチとタックの関係が微妙に変化していく過程が描かれ、『スコッチ・ゲーム』でタカチがタックの助けを借りて過去を克服し、そしてこの作品においては、タックが自分を救ってくれたように、自分がタックを救うのだと決意したタカチが、タックを過去から解放しようとする。

      3 作続けて読むと、流れがはっきりしますね。というか、少なくとも『仔羊』と『スコッチ』を読んだ人でないと、この『依存』は受け止めにくいと思う。あのぽわんと浮世離れした「仙人」タックに、これまでこのシリーズで語られてきたうちでも、最も重いかもしれない過去があったことが判明します。

      この作品単体の特徴としては、まず語り手がウサコ。今まで単なるお気楽で明るい女の子という位置付けだったウサコも、実は語り手になってみると、色々な感情を抱えていたり、とても内省的であったりする。そして、レギュラーメンバーを含めた大学の友人グループが遭遇する、一見、現在の問題には直接関係していないと思われる問題がタックの過去の物語と交互に語られ、さらに各メンバーの思い出のなかのちょっとした(今となっては証拠の取りようがない)謎を皆で考えるという、このシリーズお約束の「妄想推理」的なエピソードが点々と散りばめられている……という複雑な構成。これらはすべて、表面的には関係していないが、作品全体の中核にあるテーマのまわりを、ぐるぐると回っているのだ。

      今回はボアン先輩が、めちゃくちゃかっこいいですね。いや、これまでもさりげなく物事が分かっていて頼りがいがあって、なのに深刻ぶったりしなくて、という面は描写されていたのだけれど、ここにきて本領発揮ってかんじ。やっぱりボアン先輩、好きだなあ。

      語り口は、率直な感想を言うと、ちょっと不自然。特に、タックの過去が明らかになる部分が、ひたすらにタックの口からタカチに対して提示される体裁になっているのだが、立て板に水ってかんじでどんどん話が進むし、通常なら地の文で説明されるべきことでもタックのセリフによる分析に頼らざるを得ないので、かなり読んでてつらい。

      はたまた、前述のように語り手のウサコが非常に内省的なのだが、それ以外のキャラクター(今回は今までのレギュラーメンバーに加えて、女の子が 3 人登場する)にしても、皆がみな、いきなり「そんな、匿名ウェブ日記じゃあるまいし」というような自己や他者に対する赤裸々な「心理分析」を延々と披露するのだ。それらはすべて、本書のテーマに密接に関わってくる話ではあるんだけど……みんな、一様に、喋っているうちに人間のダークな側面に自覚的になって語りに入ってしまうのだなあ。だから、すごく息苦しいし、またあまりにスムースな分析なので、セリフとしても、その会話が行われているシチュエーションとしても、現実感がない。

      ただそれでも、分析されてみれば、読む側としては、ぎくりと思い当たる話であったり、目の前の視界が開けるような話であったりするので、こんなダークでネガティブな話に頷いている自分はちょっと危ないのではないか、と思えてきたりする反面、ものすごい勢いで引き込まれてしまったり。

      というわけで、かなり技巧をこらした作品でありながら、メッセージの重さに引きずられて全体としてのバランスを崩していると思えるような部分もあり、なおかつ「吸引力」は異様にあるという、奇妙な小説だった。それは、これまでこのシリーズを読んできて、主要キャラたちに愛着がある読者にとって、だけかもしれないけれど。

      このシリーズは、この後にまだ書かれていない「大学卒業編」が予定されているそうなのだけれど、タックやタカチ、ウサコやボアン先輩が、どのように「巣立って」いき、その後の(短編集などでは断片的に垣間見える)「社会人編」に移行していくのか。ぜひ見届けたいと思います。

      依存 (幻冬舎文庫)
      依存 (幻冬舎文庫)
      〔文庫2003年/ノベルス2001年/親本2000年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      西澤保彦『人形幻戯』(講談社ノベルス)
      「チョーモンイン(超能力者問題秘密対策委員会)」シリーズ 3 冊目の短編集(シリーズ全体では 6 冊目)。

      このシリーズは、どっちかというと一発ネタの短編連作形式ですっきりまとまってたほうが好きかな。ちょっと前に読んだばかりの番外長編『夢幻巡礼』が、主要キャラの直接的な登場なしでとにかくどろどろしていたので、こっちで神麻さんたち「なごみキャラ」が出てきてくれると、各事件内容のどろどろとしたイヤさとの対比で、ホッとします。やはりこのバランスが好き。

      このシリーズは(というより、西澤さんの作品のほとんどは)、「人間ってここまで醜いことを考えつけるんだよ」というような内容になってしまうんだけど、同時に「それでも捨てたもんじゃない人間もいるんだよ」という部分も提示してくれるのが好きなのかも。どちらが欠けても、駄目なのだ。醜い部分の容赦なさもまた、作品に不可欠なのだ。

      『夢幻巡礼』での主要キャラクターたちに暗い執念を燃やす者の存在とか、前作短編集で出てきた歪みの部分がこの短編集でも引きずられていたりすることとか、徐々に著者が予定する最終話への流れが形成されつつあるかんじだけれど、楽しみなような、怖いような。

      人形幻戯 (講談社文庫)
      人形幻戯 (講談社文庫)
      〔文庫2005年/親本2002年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      西澤保彦『仔羊たちの聖夜』(角川文庫)
      今月、『麦酒の家の冒険』『彼女が死んだ夜』を再読したのにつづいての再読ですが、前に読んだときは感想を書いていませんでした。

      ボアン先輩を接点として、タックとタカチ、そしてウサコが知り合いになったいきさつはここで書かれていたんですね。

      探偵として動き回ったり、自分の問題に重ね合わせて感情を揺り動かすのはタカチのほうなのだけれど、物語はひたすらにタック視点で語られる。タックから見たタカチの服装の変化が細かく描写されるのが、なんかいいなあ。

      タカチがただならぬ熱意と感情移入をもって解明する連続自殺事件の真相は、やはり人の感情の醜い部分を浮き彫りにするやりきれないものなのだけれど、ラストのタックとタカチのやりとりは、なんだか暖かく希望が感じられる。

      仔羊たちの聖夜(イヴ) (角川文庫)
      仔羊たちの聖夜(イヴ)
      〔文庫2001年/親本1997年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      西澤保彦『夢幻巡礼』(講談社ノベルス)
      「チョーモンイン」シリーズ番外編。普段のシリーズ作品とは、まったく趣が異なり、レギュラーの登場人物もほとんど登場しない。

      能解さんに異常な執着心を持つ連続殺人犯の一人称視点で語られる、10 年前に起こった不可解な事件の経過と謎解き。ここでも「いびつな親子関係」が焦点に。この作者にとって、とても重要なテーマなのだろう。

      あとがきによると、この作品はシリーズ最終話への重要な布石なのだそうだけれど……。かなり怖い展開になりそう。

      夢幻巡礼 (講談社文庫)
      夢幻巡礼 (講談社文庫)
      〔文庫2004年/親本1999年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      西澤保彦『謎亭論処―匠千暁の事件簿』(ノン・ノベル)
      しばらく離れていたけど、久々に読むとやっぱりこのキャラクターたち、すごく好きだわ。サブタイトルがこれってことは、このシリーズの主役ってタックだったのか(いや、なんとなく主人公持ち回りなのかなあ、というイメージでした)。短編集。

      今回は、シリーズ第 1 作の『解体諸因』同様、大学卒業後の話のほうが多い。ウサコが大学院で心理学を学ぶ人妻だったり、学生時代に一番ぶっとんでたボアン先輩が女子校の先生なんていうカタギな職業で、しかもけっこう、いい先生っぽかったりするのって面白いよなあ。でも分かる気はする。実は人付き合いも気配りも一番向いてる人かもだもんね。『解体諸因』の頃より、学生時代の彼らに親近感がわいているので、なんだか感慨深い。

      謎解きは相変わらずの「妄想推理」。証拠を確認なんかしないで、「こういうストーリーもありじゃない?」という提示がなされた時点でぷつっと最終ページになっていたりする潔さなんて、このシリーズだからこそ。

      しかし一番ショックだったのは、なんといっても学生時代の話のほうでの(ネタばれ→)ボアン先輩の不倫事件(←ネタばれ)でしょう(笑)。うわあああんっ。

      さりげなく、ほかの長編での事件群を踏まえて、作品ごとに登場人物たちの間の距離が微妙に変化しているさまなどが表現されており、なんとなくどきどきする。


      謎亭論処―匠千暁の事件簿 (祥伝社文庫 に 5-3)
      〔文庫2008年/親本2001年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      梨木香歩『からくりからくさ』(新潮社)
      日本人形の「りかさん」を中心に、一軒家で共同生活をする 5 人の女子大生。それぞれの性質と、それぞれの立ち位置と、それらを結びつける「りかさん」のかかわり。

      淡々と静かなのに、ふと気がつくと息苦しいほど濃密に「女臭い」物語。この作者の細々とした生活描写は好きだ。

      からくりからくさ (新潮文庫)
      からくりからくさ (新潮文庫)
      〔文庫2001年/親本1999年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      中村うさぎ『パリのトイレでシルブプレ〜!』(角川文庫)
      お正月頃に当サイトの掲示板で話題になっていたので、なんとなく。よくここまで書いちゃうよなあ、というような話も。でも、自分を外から見たときにどういうふうに書けば読者にとってインパクトが強いかとかを、かなり冷静に計算できる人であるとみた。でもお買い物するときには冷静にならないのね……。

      パリのトイレでシルブプレー! (角川文庫)
      パリのトイレでシルブプレー! (角川文庫)
      〔2001年/親本1999年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      梨木香歩『西の魔女が死んだ』(新潮文庫)
      前に読んだ『裏庭』(新潮文庫)が面白かったので、これも文庫化するなりゲット。中学入学後まもなく登校拒否になってしまった主人公のまいは、親元を離れて在日英国人である母方の祖母のところに預けられる。「魔女」を自称するおばあちゃんの元で魔女修行をすることになったが、修行のための基礎トレーニングとはすなわち、まず精神力を高め自分を律する規則正しい生活を送ることなのだった。

      まいとおばあちゃんの穏やかでありながらも背筋の伸びた、手製のジャムや摘みたてのハーブの香りが漂う生活ぶりの描写がすごくよい。健全な精神って、こういうところを土台にして育つんだろうなあと思わせる、基本に忠実な暮らし。私が一番気に入ったのは、洗い立てのシーツをラベンダー畑の上に広げて乾かすシーン。ああ、うっとり。

      ただ、自分を省みると、多分この作品の登場人物の中で最も私に近いのは、まいの母親だろうと思う。家庭を持っても、それを守ることには専念できない、キャリア志向のママ。おばあちゃんの考え方とは相容れない生き方をしか選べない、まいのママ。物語自体はひたすらまい中心に進んでいるんだけど、それでもママとおばあちゃんのやりとりは、かなり切ない。

      この文庫版には、表題作のほかに「渡りの一日」という短編が収められていて、ネット上ではこれが本編と雰囲気が違いすぎるので入れてほしくなかったという意見をいくつか見たけれど、個人的には、この短編が入っていて良かったと思う。なぜならこの短編において、まいは初めて、「色んな生き方をする女の人がいていいんだ」という発見を明確に自分の中で言語化するからだ。「西の魔女」であったおばあちゃんの弟子として豊かな生活力を身につけた彼女であっても、違う生き方をする自分の母親の存在を認めることができているのだ、というところまではっきり書いてもらわないと、心の狭い私は多分、本編を抵抗なく受け入れることができなかっただろう。

      西の魔女が死んだ (新潮文庫)
      西の魔女が死んだ (新潮文庫)
      〔2001年/親本1994年, 楡出版〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      長野まゆみ『夏至南風(カーチィベイ)』(河出文庫)
      からりとした本格的な夏がやって来る少し前に、南から吹いてくる湿った風。何もかもを、腐らせていくような、湿った生暖かい、風。

      そんな風に吹かれるままに、中国系の架空の土地であるらしい町全体が、そして少年たちが、けだるく腐敗している。なのに、そんな彼らが奇妙に透明な存在に見えるのは、彼らに普通の意味での「愛憎」が欠落しているから、かもしれない。

      毒の花のように繊細で傷つきやすく残酷な少年たち……。

      昔々のデビュー作『少年アリス』あたりではまだ見え隠れする程度だったこの著者の「毒」っぽい部分が全開ってかんじで、ちょっと戸惑ってしまったけれど、なんとなく「書かれるべくして書かれた作品」という気もした。

      夏至南風(カーチィベイ) (河出文庫―文芸コレクション)
      夏至南風(カーチィベイ)
      〔1999年/親本1993年〕
      な行(作者名) | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
      + about this blog
       かつて存在した「本の虫茶房」というサイトの1996年から2000年の読書メモと、現行サイト「虫の居所」の2002年までの読書メモを再掲載しています。
       現在では捉え方が変わった本もありますが、感想文は誤字の修正など以外ではほぼ当時のまま。
       今後の実質的な更新はありませんが、コメント、トラックバックは受け付けています。